『木造住宅における正しいリフォームのありかた』について

投稿日 2015年03月18日

設計の永里です。
今回は『木造住宅における正しいリフォームのありかた』について・・・。
やっと手に入れたマイホーム。年数もたち家族も増え、屋根や内外装も少々くたびれたし
使用目的も変わり、使い勝手も多少難しくなったなぁと感じた時、誰もが考えるのがリフォームです。
キッチンやトイレ、洗面脱衣、UBなど、水廻りを変更するには、大変な費用が生じますが、それ以外の
間取りの変更、内外装の改装などは比較的、安価といえます。ビニールクロスの貼替などの表装工事なら、
たいていの工務店さんや、大工さんなどに依頼する事で、十分だと思います。

問題なのは、6帖間を8帖間に変更したりする時に生ずる、既存の柱や壁の撤去工事。
多くの工務店さんや大工さんなどは、せっかく百万円単位で工事にお金をかけるのだから、お客様の
満足する間取りにしてあげよう・・・と頑張り、知恵をしぼり、梁の架け替え、補強などを施し、
『大丈夫、この柱は撤去出来ますよ。普通は無理ですが、梁を架け替え補強するから大丈夫ですよ。』
と、お客様の要望を安易に叶えてあげてしまうのです。でも本当に大丈夫なのでしょうか?

たとえば、誰もが一度は見たり、聞いたことがある、『100人乗っても大丈夫。○○の物置。』のCM。
本当に100人乗っても大丈夫ですか?答えは、はい大丈夫です。実際に100人乗ってTVに出ています。
ただし、そう~と乗っています。軸方向(縦)の荷重は問題ないようです。でも横方向はどうでしょう。
100人が乗って、みんなで横方向にいっせいに揺らしたら・・・。多分壊れてしまいます。
そう、地震時にはこの横揺れが起こるのです。(もちろん阪神・淡路大震災のような、かりに小規模でも
被害の大きな、縦揺れを伴う、たちの悪い直下型のものもあります。)

建築に携わる多くの人たちの中でも、構造屋と言われる構造のみを専門に扱う人たちがいます。
構造の専門家であり、優秀な彼らの多くは、ビルやマンション・高層ビルなどの構造設計を手掛け、
木造住宅の計算は主に意匠屋と言われる、構造にほとんど精通していない、一般の建築士が行います。
計算には、ほとんどの場合、市販の計算ソフトを使用し、木造建築(2階まで)においては
それで十分とされています。その程度の構造知識で『大丈夫、この柱は撤去出来ます。』などと
言えるのでしょうか?意匠屋が、横揺れも考慮しないで・・。かくいう私も意匠屋の一人です・・。

2階建の2階部分なら、たとえ意匠屋であっても勘と経験で、ある程度の正解に近い判断は出来ます。
しかし、2階建の1階の柱となると、状況は全く異なります。計算ソフト等による、検討が不可欠です。
工務店さんの一監督や大工さんの勘や経験などでは、判断しきれないし、してはいけないのです。
旧基準で建築した木造建物において、ただでさえ現行基準に不足した耐震強度を、さらに柱(壁)を抜く
という暴挙を、構造に対する無知と、お客様の満足度を得たいがための思いが、起こしてしまうのです。
せっかくのお客様のためにとの思いが、無知な勘違いによっては、大変な不幸を招きかねないのです。

近年、多く発生する地震などで、建築基準法の耐震構造基準は、より安全性を考慮し大きく変化し結果、
現存する建物の多くが構造的に、既存不適格であると言えると思います。そんな中、従来通りの
リフォームと同様に、耐震補強のリフォームが年々増加しつつあり、各行政の補助金制度も存在します。
もちろん、旧基準の建物が中軽度の地震ですぐに倒壊する事はないとは思います。いや、そう思いたい。
リフォームするにあたり、お客様の理解が不可欠です。『強度が落ちるなら、その柱はそのままでお願い
します。安全が優先ですから。』と、お客様からの、その一言が現場の暴走の歯止めとなる事と信じます。
最後に、リフォームするなら、現状維持だけでなく、大切な命を守る耐震補強も忘れずにお願いします。